緩和ケアと病気の治療は密接な関係にあるとされています。緩和ケアによりストレスを軽減させることで、食欲や免疫力が向上し、最期に至るまでの生活の質の向上を期待できる。緩和ケアの必要性・重要性を知っておくことで、重病を患ってしまった際に精神的な支えを持つことができます。
当記事では治療と並行して緩和ケアを受けることで、患者の生存期間が延びるのかについて解説します。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、生命を脅かすほどの重病に直面している患者とその身内に対して施す『身体的・精神的なケア』のことを言います。日本では主に『がん』の宣告をされた人を対象に緩和ケアを施すことが多く、初期・末期問わずがんを患って不安や悩みを抱えてしまった人に推奨されるケアです。
緩和ケアは以下で示す苦痛を和らげることで、患者の『生活の質』を重病になる前からなるべく低下させないように取り組みます。
- 気持ちの面での苦痛
不安で夜も眠れない・やる気が全く起きない・常にモチベーションが低下しているなど - 社会的な面での苦痛
働きたいけど働きにいけない・子供の世話ができないなど - 治療に関する苦痛
髪が抜けてきてしまった・体の一部が痺れる・ご飯をまともに食べられないなど - 今後の人生に関する苦痛
生きる意味を見出せない・これから家族に迷惑をかけることが不安・自分の将来が不安など - 体の変化に対する苦痛
痛い・苦しい・気持ち悪い・だるいなど
これらの苦痛を和らげて患者にケアを施し、最小限のストレスで治療の質を高めていくことが緩和ケアの目的です。
緩和ケアの定義
緩和ケアの定義は『生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対するケア』であるとWHOは発表しています。この定義によって、緩和ケアは終末期の病気に限らず、重病とされるいかなる病気に対しても早期から提供すべきものであるという立場を明確にしました。
つまり、この定義に基づくと緩和ケアは以下のような目的があることが読み取れます。
- 緩和ケアは早期から『がん』に対する治療と並行して行う
- 身体的苦痛の緩和だけでなく、精神的・社会的な苦痛に対する緩和も施す
- 患者のQOL(Quality of Life: 生活の質) の維持向上を促進し、患者がその人らしく最期まで生活できるように支える
- 患者が抱える困難・問題に対してチームでアプローチをすることで対処する
- 家族も緩和ケアの対象として接し、死別後の遺族の悲嘆にも配慮するようにする
緩和ケアには上記のような目的があり、患者自身や身内の人が重病を患っても安心して治療に専念できるような環境を作り出します。
緩和ケアの対象者
一般的に緩和ケアは『がん』と診断された方が対象になります。海外ではがん以外の重病(後天性免疫不全症候群などの)に対しても緩和ケアが行われていますが、日本においてはがんに対する緩和ケアが最も認知されています。
また、緩和ケアは年齢や病気の進行度に関係なく受診することが出来て、以下の要項を満たせば希望する人は誰でも受けることが可能です。
【緩和ケアを受けるための要項】
- 悪性腫瘍等の生命を脅かす疾患に罹患し、緩和ケアを必要とする患者およびその家族等の介護者が対象
- 患者と家族、またはそのいずれかが緩和ケアを望んでいること
- 緩和ケアの提供時に患者が病名・病状について理解していることが望ましい。もし、理解していない場合、患者の求めに応じて適切に病名・病状の説明が必要
- 家族がいないこと、収入が乏しいこと、特定の宗教を信仰していることなど、社会的、経済的、宗教的な理由で差別はしない
緩和ケアを受けられる時期
緩和ケアは重病と診断された時から受けることができます。緩和ケアは治療によって生じる苦痛を和らげることが目的とされているので、治療を開始するタイミングと合わせて開始するのが一般的です。
従来、緩和ケアは下図上段のように『がんの治療をやめる→緩和ケア開始』という流れで行われていましたが、1990年にWHOががん治療と緩和ケアの関係性において新しい形を示したことで、治療の開始時期や緩和ケアの方法が変わってきました。治療の負担が大きくなるにつれて緩和ケアの重要性が高くなることから、治療と緩和ケアの関係性は下図のような形で現在は認識されています。
早期緩和ケアで生存期間は伸びるか
学術的根拠が少ないため、早期緩和ケアで明確に寿命が延びるとは断定できません。
緩和ケアの主は残された寿命に対し、「生活の質の向上」を目的としており、緩和ケアを受けることで、「最期に至るまでのプロセスが変わる(苦痛やつらみを取り除き、穏やかに生活を送ることができる等)」ことが重要であります。
一部の説では、緩和ケアによって生存期間が延びる可能性も示唆されており、以下の理由が想定されます。
- 緩和ケアによってストレスが軽減することで、身体機能が良い状態に保たれる
- 緩和ケアによって食欲が上がり、免疫力が高まることで自己治癒力が向上する
- ストレスが軽減すると体力が上がるので、治療に耐えられる体になる
- 治療に耐えられる体になることで、適切な時期に手術が可能になる
患者の体力と免疫力が向上する(維持する)ことで、適切な時期に治療が出来るようになる可能性がある、という説であり、結果として、病苦の進行を遅らせることが出来ることに繋がるのではないかと考えられました。
ただし、早期緩和ケアで生存期間が伸びるという学術的な証拠はなく、寿命の延伸を望むのであれば治療の継続を実施すべきです。あくまで緩和ケアの目的は「生活の質の向上」であることを念頭に置いてください。
早期から緩和ケアを行う重要性
早期から緩和ケアを行うことで、以下のようなメリットがあると言えます。
- 前向きな生活を送れるようになった。
- Well-beingを支える
重病にかかってしまった時、最も気を付けなければいけないのが精神的な健康を損なってしまうことです。精神的な健康を損なってしまうと、体力や免疫力の低下が促進され負の連鎖で病気が悪化していってしまいます。これを防ぐためにも緩和ケアは重要な治療の一つとして認識されており、患者自身の治療生活をより良いものにするために必要なケアです。
前向きな生活を送れるようになる
緩和ケアは生活の質(QOL)を改善して、前向きな生活を送れるようにするアプローチとして重要な役割を担っています。重病を患うことによって、多くの人は様々な苦痛を味わうとされています。
例えば、がんによる痛み・呼吸困難などの身体的苦痛、不安・抑うつなどの精神的苦痛、仕事や家族のことについての悩みなどの経済的苦痛、死に対する恐怖や生きる意味を見失うなどのスピリチュアル面での苦痛などです。
これらの苦痛があることによって、患者のほとんどは後ろ向きな思考となってしまい、心身ともに衰弱していってしまいます。緩和ケアはそういった心身の衰弱を防ぎ、前向きな考えを持つことを促して、適正な治療を受けられるようサポートしてくれる重要な役割を担っています。
Well-beingを支える
『Well-being』とは、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態のことを言います。緩和ケアはこの『Well-being』という状態を支えるのに重要な役割を果たします。
WHOは健康の定義を『肉体的・精神的・社会的に良好な状態にあって、単に病気や虚弱ではないことにとどまるものではない』としています。一般的に、人は病気になると健康ではないと思ってしまいがちですが、WHOの定義に照らし合わせるとそれは一概に正しいとは言えないと提唱しているのです。
WHOの定義を踏まえて、緩和ケアは肉体的な虚弱があったとしても不健康な状態ではないという前提のもと、精神的・社会的な面を良好にすることをサポートして『Well-being』を支える役割を果たします。
緩和ケアに対する豊泉家グループの取り組み
緩和ケアに対する豊泉家グループの取り組みとして、『自由な選択』を尊重したケアを実施しています。豊泉家の緩和ケア病棟には選択できる豊富なサービスや、患者が楽しめる豊富な施設(カラオケルームやラウンジ等)があり、患者が充実した豊かな生活を楽しむことができるサービスを提供しています。
豊泉家グループでは少しでも、緩和ケアを通じて患者様自身が、自立し、自由な選択ができる環境のもとで過ごせるように、やさしさ、心のこもったおもてなしケアを提供します。
実際の施設の様子や、豊泉家のサービスなどが体験できる、施設見学も順次受け付けております。
(リンク先:https://seiwa-h.org/chiiki/)
まとめ
緩和ケアは早期に取り組むことで患者の生存期間を延ばす見込みがあるとされています。これは、緩和ケアによって重病のストレスを軽減させることで、体力・免疫力の低下を抑えられ適切な治療にあたることが出来る点に要因があるとも言われたりしています。
生存期間が延びる明確な理由が無いものの、緩和ケアが重病の治療において大きな役割を担っているのは紛れもない事実です。患者の生活を前向き且つ質の高い状態で維持が出来るようにするためにも、緩和ケアを取り入れることは前向きに検討する価値があると言えるでしょう。