ほうせんか病院

緩和ケア医師
ご挨拶

緩和ケア-医療の原点

進藤医師

多くの人は身体に関する苦痛があって病院を受診します。自覚症状があり、痛みや食欲不振、倦怠感など身体状況の異常を感じての受診もあるでしょう。また、たまたま受けた検診で身体の異常が見つかり、受診されることもあるでしょう。いずれの場合にも身体の異常を苦痛と感じて病院を訪れます。そして、検査を受け、診断され、治療ということになります。

その時、人は患者さんと呼ばれ、医師はその人の疾患を治そうと必死になります。

治療がうまくいき、時間がかかっても日常を取り戻す人もいれば、やはり不治の病であり、残りの人生が限られたものであると予想されることもあります。いずれにしても、医療現場で大切にされなければならないのは、その人の人生、生活、価値観、想い、願いです。

私がそのことに気付いたのは、緩和ケア医になってからでした。治療がうまくいき、命がのびたとしても、その人の人生が台無しにされては医療ではないと考えるようになりました。たとえ、残された時間が短くても、その人の人生を支えることが医療の目的だと思います。可能な限り普通の生活が送れること、想いや願いが実現できること、どんな患者さんの状況においても、医療者はそこに向かっていかなければなりません。
特に人生の最終段階を歩んでいる人に、身体的・精神的な苦痛を取り除くことは当然のこと、社会的な問題やスピリチュアルな苦悩も共に考えて、生ききってもらうことを支えるのが緩和ケアであり、医療です。人生物語の最終章がその方らしく、ご自身の人生に折り合いをつけることができたなら、その最期に関わる全ての人が綴っている人生物語も穏やかな1ページとなるのではないかと考えます。

人生の最終段階をどこへ迎えるのがいいのでしょうか?
やはり、自宅、家族に囲まれての最期がベストでしょう。自分の人生の全てが詰まった家、生活空間で最期を迎えられたらと願う人は少なくありません。でも、そうとは限らないことが多いのが現代社会です。一般的には、緩和ケア病棟・ホスピスに入院したら最期までそこで過ごすと思われがちですが、私が考える緩和ケア病棟は、その方の人生を支えるためにあるものです。

ご自宅がいいと思っていても、在宅では症状緩和が難しいこともあるので、入院で症状緩和をしていきましょう。家族も在宅で看てあげたいと思っても諸事情で難しい場合は、期間を限定して入院し、また事情が変わればご自宅で看てあげるシステムがあればいいと思います。全ての可能性を考えてもご自宅で過ごすことができない場合は、緩和ケア病棟で最期を迎えることができます。そんな方のために、緩和ケア病棟はご自宅で過ごしているような雰囲気で、その方の人生の最終段階をその人らしく過ごせる場であってほしいなと思います。

近代緩和ケアの創始者であるシシリーソンダース女史は、緩和ケア病棟はコミュニティでなければならないと考えました。いろんな職種の人が互いに協働し、ひとつの組織として機能するのです。ケアの本質は、ケアする人とケアを受ける人が互いに呼応しなされるものと言われています。コミュニティに属する人々がそのことを意識しながら、緩和ケア病棟はそこにいる一人ひとりにとって素晴らしい場となるのではないでしょうか?

私は緩和ケアに従事するようになって、多くの人の人生、いのちに関わってきました。そのことで私の人生はより豊かになり、より充実したものとなった気がします。これからも自分の人生をより大きなものにするために、緩和ケアに携わり多くの方と喜んだり、笑ったり、時には涙を流して、自分の人生の最終段階に向かっていきたと思います。

2023年4月
医療法人成和会 ほうせんか病院
緩和ケア部長
進藤 喜予